中部経済新聞
身内の夢と他人の夢、現実として受け止めたとき、自分への影響も大きいため受け取る側の気持ちは違うものです。
3年前のある日、私の中2の長男は学校へ行かなくなりました。当時は父親を亡くして半年のころです。「悲しいんだろう、傷ついているんだろう」まわりにも言われ、私も少しそう思っていました。
当時の気持ちを自己分析すると、自分の中に「義務教育なんだし中学くらい行ってほしい」という期待があるということに気づきました。いくら笑ってみても、言葉に表れないプレッシャーを与えてしまっているだろうなと感じました。
2週間以上学校を休んだ後、息子の口から出た言葉は「夢ができた」でした。
意外な言葉に驚きながらも、ミュージックコンポーザーという職業について、目をきらきら輝かせて話す姿を見てどんなことがあっても彼の夢を応援しようと決めました。
彼が仕事について調べたところ、高校、大学を出て憧れの会社に就職するのが王道だが、中学生でも今そのスキルさえ身につければ、一足飛びにその仕事ができるとネット上に書かれていたそうです。
「今すぐやりたい、学校へ行って関係のない勉強をしていると大人に置いていかれる・・・」そう思い立ち、すぐに独学で勉強を始めていたのです。
私にできることは、あこがれの人の行動を真似る「モデリング」から、まずはその職の人を探し息子の話を聴いてもらうことでした。その方は音楽に関わる職種はとても幅が広いこと、大人になるまでに選択肢の幅を広げることの重要性、何より「たくさん遊んだらいい」などと話してくださいました。
人は憧れの人に言われるとすぅっと耳が開くのです。話し終えたとき、息子は自らの意思で高校へ行くという選択をしていました。
人はどんな状況でも夢を描くことができます。そしてその思いが強くなると迷いがなくなります。話した翌日から、中学を卒業するまで一度も学校を休むことなく通い、今は夢に向かって音楽活動をしたり、勉強したり楽しく忙しそうな毎日を過ごす高校生になりました。
最近になって、「あの時、お母さんが信じて待ってくれたから話せたんだ。あの時怒られてたら、いまだに同じところで止まってたと思う」そう言われました。
当時の彼は、傍から見ると誰が見ても「悩み悲しんでいる中学生」に見えていました。
そんな彼を見て、私は自分の持つ期待を本当の意味で手放す決心をしました。そしていつでも話を聴く準備があると毎日伝え、毎日抱きしめました。
その結果、彼の本当の心の中は「夢に向かって無我夢中で学んでいる中学生」だと知ることができたのです。
人の本当の気持ちは、本人に聞いてみないとわかりません。
しかし聴いてしまえば、その夢や可能性は一番近くの人が砕くとも言われています。
多様性が叫ばれ、絶対というものがないこの時代、人の夢を聴ける事とその可能性を応援できる家族関係は本当に素晴らしいと感じています。
話すことは放すこと、話したときから一人の夢ではなくなり知恵やアイデアが集まります。
どんな事業も誰かの夢から始まっているものです。
年末年始、のんびりお酒でも飲みながら家族や仲間の夢を聴いてみませんか♪